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「やっだぁ~」
自分の上履きの裏側を見て、大袈裟な声を上げる藤崎は、踏んだものに対する謝罪の言葉はない。
それどころか、「誰よ。こんな所にハンドクリームなんて落としたヤツは……」と、不快感を露わにしていた。
「あ、えっと……ごめんなさい」
物自体は阿川の物だとはいえ、落とした原因は間違いなく自分にあるので、詩織は藤崎に向かって、申し訳なさそうに頭を下げた。
「あ~……中島ちゃん、見るからにトロそうだもんねぇ。見てよコレ。上履きも床もベトベト」
犯人が自分よりも格下だと分かった藤崎は、ネチネチとした態度で厭味を言う。
声が大きく、派手な見た目の藤崎が、廊下の真ん中で騒ぐものだから、周りの生徒達も遠巻きに集まり、好奇の眼差しを向ける。
「ってか、何? コレ、めっちゃ高級品じゃん。中島ちゃん、地味子なのに、こんなの使ってるなんて生意気ぃ~」
踏まれてグチャグチャになったハンドクリームを汚いものでも触るかのように、人差し指と親指で摘まみ上げた藤崎が、詩織を小馬鹿にすると、阿川が珍しく低い声を出した。
「それ。私のなんだけど」
無表情な阿川に見つめられた藤崎は、「え? 芳江のなの? え? でも、今、中島ちゃんが謝ったよね?」と、焦りだす。
この様子を見れば力関係は歴然。
阿川の機嫌を損ねないように、言い訳を探して焦っている藤崎の滑稽さを、『いい気味だ』と思えるほど詩織は図太い神経を持ち合わせてはいない。
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