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 品行方正で常に笑顔を湛えている彼女の、初めて目にする冷たい雰囲気に、詩織までもが怯えた表情を見せるが、それも僅かな時間だけのこと。  すぐにいつも通りの朗らかな笑みを見せた阿川に二人はホッと胸を撫でおろした。 「それより、彩音はそそっかしいから気をつけなさいよ。クリームの油分で滑りやすいからね」  ポケットからティッシュを取り出し、「これで拭きなよ」と藤崎に手渡した阿川は、その場にしゃがみ、床を綺麗に拭いていく。 「あ、わ、私も拭きます」  一緒に拭こうと思い、腰を屈めた詩織に向かって、「大丈夫よ。すぐに済むから」と、サッと片手で制した。  そのスマートな行動に見惚れたのは詩織だけではない。  三人に注目していた周りの生徒達からも、「ほうっ」と感嘆の息が漏れたと共に、これ以上は揉めることはないだろうことを察して、みんな散り散りと去っていった。  それから藤崎も混ざり、三人で教室まで行くことになった。  大人しいタイプの女子を毛嫌いして、下に見ている藤崎は、もともと詩織のことが好きではなかったのだが、ついさっき、大好きな阿川から冷めた目で見られたのは、自分が悪いわけではなく、詩織のせいだとムカついていた。  詩織は詩織で、完全に藤崎に嫌われたことを敏感に察知していたので、正直、この組み合わせで一緒にいるのは、落ち着かない。  一人で行きたいのは山々なのだが、阿川から「三人で行きましょう」と言われてしまえば、断るのも角が立つ。
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