6/7

42人が本棚に入れています
本棚に追加
/20ページ
 仕方なく詩織は二人の一歩後ろをついて歩いていると、時折、藤崎と会話をしている阿川が話しかけてくるので、適当に相槌を打っていたのだが、それすらも藤崎は気に食わないらしく、阿川に気付かれないように睨みつけてくる。  その視線を受けて、小さな溜息をつくと、阿川が急に大きな声を出した。 「やだっ。忘れてたっ」 「どうしたの?」  ちょうど階段を上りきるか、きらないかというところで立ち止まった阿川に、藤崎が振り返ると、「彩音、ごめん。羽鳥先生が始業前に、彩音に職員室へ来るよう伝えてくれって言っていたのを忘れてた」と、困ったように眉を下げた。 「え~。マジかぁ。って、始業前って……予鈴まであと五分じゃん! 芳江、気が付くの遅いよぉ~」 「だから、ごめんってば! 鞄、教室まで持って行くから、早く行って来て」  頬を膨らませる藤崎に向かって、両手を合わせ、拝むような仕草をすると、阿川は彼女の鞄に手をかけた。 「わかった。じゃあ、鞄。宜しくね」  急いで階段を駆け下りようと、足を踏み出した藤崎に、「彩音っ! あぶないっ!」と、阿川が切羽詰まったように叫んだ。  普段、声を荒げることなど滅多にない阿川の、あまりにも大きな声に、ビクリと肩を揺らした藤崎は、驚きのあまりバランスを崩した。  階段からツルリと滑る足。  咄嗟に手摺りを掴もうとして、空を切る手。  ゆっくりとコマ送りのように背中から落ちていく体に、詩織は手を伸ばしたが、目で見ている以上に落ちるスピードは早い。 「きゃぁぁぁぁっ」  金切声が響き渡るが、それも1、2秒のこと。
/20ページ

最初のコメントを投稿しよう!

42人が本棚に入れています
本棚に追加