葛湯

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運慶は、椀にくっついてゆっくりとしか流れてこない葛湯の、冷めてからの方がよくわかるとろっとした食感を舌で味わいながら、ミツに聞いた。 「あんた、あの木屋又の婆さんのところの娘かい?」 ミツは少し考えながら、 「娘ではないです。拾っていただいて、使ってもらっています。」 と、やや丁寧な言葉遣いをした。 運慶は、空になった腕を、ミツの手に戻しながら、 「拾ってもらって?」 と、気になる部分を聞き返した。 「私は、伊賀の杣の子でした。母は、早くに亡くなったそうです。父が私を一人で育ててくれてたんですが、五年ほど前に、大きな桂の木を切り出す時に、倒れた木に挟まれて亡くなってしまいました。それで、身寄りのなくなった私を、ここの長老様が連れて帰ってくれて・・・。」 あまり身の上話などし慣れてないふうに、ミツは話した。 「それで、木屋又の爺に預けられたのか・・。」 運慶は、理解した。造仏所の長老様が行っていたとなると、ここで使う良材を探していたのだろう。もしかしたら、欲しい大木を切り出そうとして、ミツの父は死んでしまったのかもしれない。 仏縁という言葉があるが、正に、ミツは伊賀にあってここと繋がる命であったのだろう。 「おかげで、今は毎日食べられます。杣の村にいた時は、いっつもお腹が減って、山に食べられるものを探しに行ったことしか覚えてない・・。」 ミツは、笑いながらそんなことを言った。 運慶は、不思議であった。 ミツは、明るく見える。親も兄弟もなく生きてるようには見えなかった。それに、いつもケンカばかりしているような運慶を怖がったりする素振りも見えないし、棟梁の息子と知っても大仰に控えることもしない、むしろ年下の弟をからかうような素振りをする。そういえば、まるで姉のような・・感じだ。そんなはずはないのだが・・。
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