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運慶がお寺に入って、一年くらい経ったある日、お寺の敷地の中で藪のようになってしまっている区域を、切り開き、きれいにする作務をしていた。その時、一緒になった立正坊は、
「作務はおまえらがやっておけ。」
と言って、大きな松の木に登り、背の高さ程で横になった大枝の上で昼寝を始めた。運慶は、面白くないな、と思いつつも、文句を言うだけでは、力自慢の立正坊が聞くわけもなく、ケンカしてもまだ勝てないので、始めのうちは仕方なく、藪の中で雑木や笹竹を切って柴(燃料の束)にしていた。
しばらくして、運慶は、少し大きな木を切り倒すために誰かが持ってきていた斧を見つけた。運慶は閃き、立正坊の寝ている松ノ木に届きそうな松ノ木を探し、根元に斧を入れ始めた。
杣がするように、まず、立正坊側に三分の一くらい切込みを入れ、その後、反対側に大きく斧を入れ始めた。あと少しで、切り倒せるくらいで止めて、皆に声をかけて集め、
「今から、あの野郎に一泡ふかせてやる。」
そういって、最後の切込みを入れる。皆は、幹に縄をかけ、立正坊の方に倒れるよう引っ張った。
ギ、ギ、ギー、どすーん。
松の木の上の方の枝で、しこたましばかれ、地面まで落ちた立正坊を、皆で大笑いした。顔や手足には血もにじんでいる。
「こら、お前達、何をしやがる!」
立正坊は怒っているが、まだわざとやったとは気づいていないようだった。それでまた皆がクックと笑った。そして、皆、大笑いは我慢して、そ知らぬ風を装うのだった。運慶は、日頃、立正坊に面白くない思いをさせられていて、何かしてやりたい皆の思いを代弁したのである。
運慶は、早、堂衆の中になじんでいた。年上の名だたる堂衆頭達に力負けしないばかりでなく、常に明るく、運慶の周りにいると、日々の作務が賑やかになった。
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