成朝と重源

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運慶は、まいった。 「それは・・・、造仏の技の高き低きは、この駆け出しには それほどのことには思えませぬ。拙い、というか、簡素な造りの御仏にも優れて拝みたくなるものはございますし、緻密に掘ったからといって気高いとも限らない・・気が致します・・。ただ、ありがたい御仏は・・何か他と違うものを持っていると思いまする。」 運慶は、行き当たりばったりで口から出るにまかせて抑揚をつけた。ある意味で、滑稽を装っている。当然、成朝もこんなことでは悩んでいるまい。おそらくは、造仏に、どれだけ自分というものを出して良いのか、わからなくなったのではないか。父、康慶も、院派や円派の御仏をみては、「こんなものどこがよいのじゃ」という表情をする。だが、どこが悪いとはいわない。 成朝は、重源から何かを聞き出したい、という表情をしていた。運慶の言ったことなど、聞き留めているのかどうか怪しいくらいであった。 重源は言った。 「そうさの、御仏には、処によって、時代によって、また仏師によって、様々な様式や固有の特徴があるの。それは、すべてこの国の宝であろうが、優劣や権威を競うべきものではないはずじゃの。昨今、儂らが頼っておるところの高貴な方々には、何やら競い合ってみえるところはあるな。お主ら、仏師たちは、生業が成りやすいだろうが、よいことには思えぬかの?」
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