超絶技巧の男

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快慶は、暇さえあれば座禅を組む。無駄話をしたりだらりと寛ぐことはしない。いつも静かに、作務と造仏修行に勤しんでいる。康慶の造仏所で、おそらく最も信仰厚く、僧たる振舞いをする者であった。造仏所の板間で、他の仏工と彫りにかかっていても、快慶の巧みさはすぐに目に留まる。段取りや細工もまるでどこかの造仏所で幼い頃から鍛えられたようにも見える。 しかし、快慶は、静かな振る舞いを見せるのとは裏腹に、心の中では、この先、どのように自分の作りたい仏像を見つけ、形作っていくか、漠として見えていないことに焦りも感じ始めていた。そして、それが故に、重源聖人に相談したのである。聖人の計らいで、ようやく、御仏を造る仕事に、そして師に就けた。十年あるいは二十年、ここで尽くすしかない。それはよい。だが、自分がどんな御仏を彫りたいのか、その肝心なものが曖昧としている。 快慶には、運慶が眩しく見えた。造仏の修行は半端でも、笑い、怒り、時に身体を思いっきり使って暴れ、女(ミツ)にもうつつを抜かしている運慶の方が、やがて爆発するように才を顕わすのではないか、そう思われた。よく言えば競争心、悪くいえば未熟者の焦燥、そのような心理があったのである。
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