ミツとの出会い

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ミツとの出会い

運慶が幼い時に、少し遡る。 幼い頃の運慶は、元気で、仲間には人懐こい男児であったが、負けず嫌いの性向が強く、勢い、ケンカに明け暮れる毎日であった。ただ、ケンカ好き、乱暴さというのも、本人の性格に起因するばかりでなく、この時代、頻発する強盗・殺人や大人も含めて「印地」という本気での石投げ合戦が日常化し、路傍に骸があっても何とも思わないような、やはり形容し難い荒みというものがあったと解すべきである。 ある時、奈良から木津に至る道を、運慶はきょろきょろと何かを探しながら歩いていた。手には、お寺(興福寺)の堂衆達がよく手にしている金剛杖をもっている。まだ、四尺あまりしかない運慶には自分の背より高い長さである。この道は、昨日も木津側から歩いてきたのだった。 昨日、造仏所の源慶と筒城(綴喜)の観音寺への使いをして帰りがけに、この地のまだ若い悪戯者に追いまくられたことに腹を立て、仕返しをするつもりでやってきたのだった。悪戯者は三人で、運慶らを見るなり、 「乞食坊主め、路銀を出せ。」 と棒を持ってたかってきたのだった。 源慶は、とっさに先方から預かってきた手紙と願文か経文を傷つけてはならぬと、逃げの姿勢をとり、<何を> とかかろうとする運慶の襟首を掴んで引っ張り、逆に手に持っていた餅菓子の包みを投げ出して難を避けたのだった。血の気の多い運慶には、我慢ならなかったようだが、無理やり急ぎ帰ったのである。 そんなために運慶は、昨日の、自分より三つ、四つ年上の悪戯者達を見かけたら、直ちにとっちめてやろうと、ギリギリ歯ぎしりしながら街道筋を歩いて来たのである。 案の定、町の辻で現れた・・のはいいのだが、今日は六、七人もいる。さすがに、運慶一人ではちょっとやられるかも・・と思いつつも体は「敵」に向かって行ってしまう。 「貴様、昨日の・・。」 「おう、乞食坊主の弟分か! また、この道を勝手に通ってるのか。」 もう、すぐ取っ組み合いである。
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