2人が本棚に入れています
本棚に追加
駅構内に入ると、『それ』はすぐ見つかった。
まだ20代の男性のはずなのに、足取りが悪く、顔色も土色と言うのだろうか、それに近しい状態だった。
スーツを着用しているが、それは清潔と言うには程遠く乱れていた。
「アイツなのは…間違いなさそうだな。」
あいつは何をしているのか、駅構内をずっと歩き回っている。
周りをキョロキョロと見渡しながら、のそり、のそりと歩いている。
周りにいる一般人も、不審者を見るような眼差しを向けつつ、近づかないようにと離れていく。
しばらくすると、駅員の人が男に近づく。どうやら連絡を受けて来たようだった。
翔はその会話を聞くために近くに寄る。
「君大丈夫かい?顔色悪いしフラフラしてるし…こんな時間から飲んでるの?」
駅員の呼びかけに男は「うぁあ……あぁ……」といったうめき声しか出せていなかった。
駅員は関わりたくないという思いが見えるほど、顔を歪めている。
「はいはい…じゃあ、ちょっと別室来てもらおうかな?」
と言い、駅員は男の肩に手を置いた。
すると、男は豹変した。
耳が痛くなるような叫び声とも言えない声をあげ始めた。
そして男は駅員の手を手に取り、その手を腕ごと引きちぎってしまった。
骨が砕けながら、肉が裂けていく音が聞こえてくる。
ピチャッ…という血が地面に飛ぶ音とともに駅員は傷口を抑えながら叫び、倒れた。
と同時にだ。周りにいた人はあまりの出来事に叫びながら逃げるしか無かった。
そして、駅員の腕をちぎった張本人はその逃げる人々に向かって走り始めた。
「ああ…くそ!」
翔は何も考える必要はなく、走り始めた男を追い始めた。
先程までとは違い、俊敏な動きで駅にいた人を追いかけ回す。
そして、一人の女性が足が絡み倒れてしまった。
豹変した男はその倒れた女性に向けて、飛びかかった。
「ようやく、追いついた!」
翔はその一瞬の動きを汲み取り、空中に飛んだ男を追い越し、女性の近くまで走りきった。
そのまま飛び上がってくる男の胸ぐらを掴み、壁に向かって投げ飛ばした。
男は逆さまの状態で壁に埋まり、翔はすぐに倒れている女性を立たせ再び逃がした。
「危なかった…あそこでお前が飛んでくれなければ助けれなかったかもな…」
翔はまだ、壁に埋まっている男の服を掴み引きずり出す。
「アリス。あれをやってくれ。」
最初のコメントを投稿しよう!