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「盗難事件の犯人に、俺はこう言った。『好きな人の私物を盗むことはしない』。だけど、それは物を盗まないってことで、髪以外の場所を嗅ぎたいという欲が我慢できなかったらどうするのだろう、と思った。今みたいに、我慢できなくて沢村を襲ってしまう。沢村に嫌われてしまう。そう思ったら、髪の匂いさえ嗅ぐのを我慢するしかなかった」
今野が、俺のこと好き?
好きだから、いつも匂いを嗅いでいた?
でも、いつまでも匂いを嗅いでいたら、俺を襲うから我慢していた?
今野の言葉を整理しながら、脳を回転させる。
「ちょっと…待て。一番初め、俺の匂いを嗅いだときは、俺のこと好きだったのか?」
「いや…。あの時は、ただ単に沢村の匂いに酔っていたかったから…」
男子高校生でも香水や整髪料をつける。
女子高生よりはマシだけど、香水や整髪料の匂いで気持ち悪くなっていたときに、俺の匂いを発見して、つい、ふらふらと跡を追ったそうだ。
「なんだそれ…」
今野の話に苦笑するしかなかった。
「ごめん…」
正座しながら、落ち込む今野を見ていたら、なんか可哀想になってきた。
俺を襲っていたときは、獲物を狙っているライオンみたいだったのに、今は怒られた子犬のようだ。
俺は、正座をしている今野に近づき、胸元を開けて背後に回った。
「沢村?」
開いた首元、肩に近い場所に噛み付いた。
「イッ…!」
ビクッと跳ね上がる今野の肩を押さえる。
少し跡がついた歯型を舌で舐めた。
「これで許してやる」
押さえていた肩から手を離し、今野のベッドに座った。
今野は噛まれたところを押さえながら、俺を見上げる。
「襲われたときはビックリしたけど、別に、今野は嫌いじゃないし、気持ち悪くもない。今野以外の奴に匂いを嗅がれることは、気色悪いけどな。それって、今野は特別なのかなってちょっと思ったんだ。…試しで悪いけど、俺の匂い嗅いでみてくれよ。告白の返事はそれからな」
手を広げ、今野を受け止める。
俺は、きっと…――――――
今野が好きなんだ。
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