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 母が男と心中した。わたしの知らない男と、わたしの知らない町で。当時まだ、高校生だったわたしを一人残して。  わたしに父の記憶はない。生前の母から父の話しを聞いた事も、一度もない。けれどわたしは父親がいない事に違和感を覚えた事も、寂しさを感じた事もなかった。それは、母の愛情が大きくて深くて、温かかったからだ。  なのにどうして。 どうしてわたしを残して逝ったか。 しかも、男と一緒に。  母の遺体が眠る警察署の霊安室で、泣く事も忘れて茫然と立ち尽くすわたしの前に現れたのが、彼だった。 「君が、莉羅か?」  優しい声が頭上の高いところから聞こえ、わたしは振り返った。  見上げるほど背の高い男性が、わたしの背後に立っていた。隣に立つ警察官の男性が(きっと普通の背丈だったのだろうけれど)とても小さく見えた。  知らない人に急に声を掛けられた事で身構えたわたしに、彼は優しく微笑みかけた。 「僕は、君のお母さんの弟。つまり、君の叔父だ」
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