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どうやらかつて僕がここの生徒だったとはわからないようだ。
そりゃそうか、あの頃とは随分容姿も変わったし……
「あ……ありがとうございます」と返事をしてから僕は訊ねる。「ところでさっきのは……?」
質問の意図がよくわからないのか、飯田先生は少し考えてから口を開いた。
「十数年前、イジメで一人の生徒がこの学校を辞めました。私達教師は、自分達の無力さを嘆き、再発防止のために、常に学校を見回るようにしているのです。一部の箇所には監視カメラも設置しています」
その生徒とは、自分の事か?
「それ以来、この学校でイジメにより苦しむ生徒は出ていません。もしかしたら見えない部分のイジメがあるかもしれませんが……その対策も今考案中です」
僕は黙って俯いた。
「一人の生徒の犠牲で……この学校は大きく変わったわけです」
それだけ説明して飯田先生はメガネをかけた生徒と去って行った。
僕は先生の背中を見てそれまであった殺意が消えるのを感じる。
そうか……
ここの生徒が全員青春を謳歌できているのは、僕のおかげなのか……
そうか……
僕はポケットの中で握りしめていたナイフを離し、文化祭の出し物に目を向けた。
今からでも……
取り戻せなかった青春を、取り戻す事ができるかな?
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