うぶめは子を食らうのか(5)

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目次から該当ページを開く。  そこにはずっと明るい笑顔を浮かべた敦也のカラー写真と共に、五ページにわたる記事が掲載されている。芸術家を志しながらお金がなく、日雇いで食い繋ぎながら創作に打ち込んできた十代、二十代の時期から、とある女性との出会いと愛娘の誕生、それと時を同じくして自分の作品が売れ始めたという絵に描いたようなサクセスストーリーが語られている。  ――娘という存在がいなければ、今頃私はどこかでのたれ死にしていたかもしれません(笑) 彼女は私にとってミューズであり、太陽だ。運命共同体といっても過言ではないんです。  文字に起こしているせいか、それともインタビュアーがうまい具合にいじっているのか、昨日の敦也よりも人懐っこさを感じた。  それとも本当の敦也がこれで、昨日は娘の安否と、迫る個展の締め切りとに追われる余り、刺々しくなってしまっただけなのだろうか。  どうやらこの街には元々創作活動でたびたび訪問しており、古来から手つかずな豊かな自然がある一方、再開発されていこうとする複雑な雰囲気が刺激的で、移住を決めたらしかった。  ――自然豊かな夢堺市を、子どももきっと気に入ってくれるだろうという確信がありましたし、実際、気に入ってくれました。 「へえ、そいつに恋してるのか」  背後からかすみに声をかけられる。 「でも、あんまり良い男じゃないよなあ。なーんか、陰険そう。やたらとにこにこしちゃって、あたしは嫌い」 「沙希、しつこい……」 「で、買うの?」  レジはさっきよりも行列が長くなって、店員のまごつきに拍車がかかってしまっている。 「いいよ」  かすみたちは店を出た。
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