そしてある朝

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そしてある朝

 ミクが泣きながら言った。 「チュン?そろそろ、パパやママのところに戻りな?」 「何で?僕はずっと君といたいのに?」  ミクは庭に出てゲージを開けた。   僕は羽ばたいた。  ミクはどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。青空を見ながら思った。あれがミクの精一杯の優しさだったんだ。  ミク?ありがとう。  2009・7・3 金    今日から新しい工場で仕事だ。  保土ヶ谷にある。  仲の良い営業マンの尾崎に叔父のことを話したら、「君が真面目に生きることが恩返しだぞ?」って慰めてくれた。 「SLP手法は知ってるな?」   生産ライン内の設備配置のレイアウトの組み方の1つだ。 「生産競争力を高めるアレですよね?設備や配置を最適にするんですよね?」 「うん、システム・レイアウト・プランニングの略だ」  P(製品)とQ(量)を分析して、基本方式を決定し、品物の流れを明確にし、要素間の関連性を客観的に評価し、それを図表化する。  さらにスペースを設定し、スペースの相互関連図を作成して、1度リハーサルをした上で代替案を作成して最終案を選択するのだ。 「直線ライン、U字ライン、二の字ライン、大部屋ラインなどがありますよね?」 「君は京都にある蹴上インクラインを知っているか?」 「尾崎さんってもしかしてテツですか?」  東京で暮らしている弟が帰ってきた。  弟はバンド活動をしている。 「お兄ちゃんがあまりよくないんだ」  僕は叔父をお兄ちゃんって読んでいた。  海や山、プールいろんなところに連れていってくれた。 「見舞いにいっとかなきゃだな?そーいやさ?おふくろ、友達の母ちゃんが失語症になっちゃったんだ」  母さんはゲームボーイのポケモンをやっていた。 「ちっ!ヒトカゲに逃げられた?事故かなんか?」 「わっかんない、よく聞いてなかった」 「バンドなんかやってて大丈夫なの?」 「今、俺が話してんだよ!おふくろ、話を遮んな」 「ケンジロウ、そーゆー態度はないぜ?」 「悪かった、失業症候群になったのは俺のせいだ。八つ当たりしちまった」  鬼束ちひろの歌にそんなのがあったな? 「失語症は重度障害じゃないと障害者手帳が交付されないんだ」 「兄貴、何でそんなこと知ってるの?」 「お兄ちゃんがあんなことになったからさ?医療に関してイロイロ研究してんだ」
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