海へ

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海へ

手を繋いだ相手が嬉しそうに海風に髪を靡かせている。 この光景をずっと見たかったと、要は感じていた。 季節外れの秋の海は犬を連れて散歩する人や、小さな子供が砂浜で遊んでいたり、サーファーがサーフボードの上で浮かんでいるくらいであまり人が居なかった。 それでも海は海。 風は仄かに海の香りがするし、少しだけべたつく。 川にはない、海らしさを肌で感じていた。 「キラキラしてますね」 海水が夕焼けがうつる海を指さして要に顔を向けた。 「波も穏やかだし、ずっと眺めてられる?」 「あー。眺めているより、ちょっとやりたいことが」 海水はそう言いながら砂浜を歩きだす。 スニーカーが砂に半分埋まり、これは砂がどんどん入ってくるだろうなと感じながら、海水に引かれて要は海に向かう。 「やりたいことってなに?」 要が問うと海水が「舐めたいんです」と、海を見たまま答えた。 「しょっぱいよ?」 海水は長い髪を片手で押さえてくるっと振り向いて要を見た。 「私は知らないから、知りたいの」 嬉しそうに目を輝かせている海水を抱きしめてしまいたいと思ったが、要はぐっと堪えて海を仰ぐ。 「想像以上に塩っ辛いから覚悟してて」 「舐めてみなくちゃそれも分からないから」 そう言って、海水が要の手を離して海に向けて走っていった。 二人に向かって穏やかな風が吹いていた。 そして君は初めて海を知る。 ※お読みいただきありがとうございました
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