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切なくなって、悲痛な視線を向けると、井上がふいにイタズラっ子のような笑顔を作った。
「帰りに、どれか寄ってきます?」
井上が、窓の外を顎でクイッと差す。穂積は、井上にからかわれたことに気づき、ムッと顔を歪めた。
「ここで停めて下さい」
「え? でも荒間署はまだ先……」
「撮影現場は、ここから目と鼻の先です。俺は先に現場に向かうので、井上さんは荒間署に車を停めてきて下さい」
井上と、これ以上二人きりでいたくなかった。冷たく言い放つと、井上が落ち込んだような顔をするからまた、腹立たしい。
穂積は井上に無理やり車を停めさせ、井上を一人車内に残し、ラブホテル街で降りた。
帰りは電車にしようかと、本気で悩む穂積だった。
◇◇◇◇◇
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