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北荒間での仕事を終え、本部に戻るシルバーのセダンの車内は、行きよりも気まずさが増して、息苦しいほどだった。
晃司が余計なことを、ベラベラベラベラ――と喋ってくれたお陰で、井上がまた変な風に刺激されてしまった。
井上は、穂積が大輔と親しくしていれば、あからさまにムッとし、晃司と仕事以外で会う――高校時代の部活の集まりだが――と知れば、傷ついたような態度を取った。
穂積は、そんな井上にかき乱され続けた。井上が嫉妬したような素振りを見せるたび、嬉しくて胸が弾むが、それを抑えるのが苦しい――。
喜んではいけない、浮かれてはならないと、自分を戒めなければならないのが辛い。
疲れ果てた穂積は力をなくし、ボーッと窓の外を眺めた。
当然だが、ラブホテルの前は素通りした。
「……管理官、聞いてもいいですか?」
北荒間を抜け、荒間市内の市街地に入った頃、運転席でずっと無言だった井上が遠慮がちに訊いた。
穂積は、顔は窓の外を向いたまま、視線だけをバックミラーに映る井上に向けた。
「管理官と小野寺って……本当にただの先輩後輩ですか? 二十年近く、ずっと」
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