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二人とも沈黙したまま、シルバーのセダンは本部地下駐車場、捜査一課車両のスペースに停まった。
井上が先に降りて、素早く後部座席の穂積側のドアに歩んできた。ドアを開けてくれた井上に小さく会釈し、穂積も車から降りる。
が、井上はそこに立ったまま、穂積の進路を塞いだ。穂積は顔を上げ、ずっと視線を逸らしてきた井上を見つめた。
「……あの、井上さん……邪魔ですけど」
「俺、もう一度、管理官と飲みに行って……腹割って話したいと思ってたんですけど……諦めます」
嬉しいセリフと、悲しいセリフを続けて言われて、穂積は強がって笑うこともできなかった。
喉の奥がツンと痛み、声が上手く出てこなかった。コクリと唾を飲みこむ。
「……男好きと二人で飲みにいくんじゃ、不快ですか? これでも自制心は強い方なんですけどね」
自虐的に言った穂積に、井上がゆっくりと首を横に振る。
「すいません、言い方が悪かったです。そうじゃなくて……管理官が、男が好きって聞いちゃったから……俺、二人きりになったらもう、我慢できそうにないんで」
なにを――? 本当はわかっているが、それが信じられなくて、穂積は眉間に皺を刻み、井上をジッと見つめた。
目が合った井上は、ひどく悲しそうだった。
「……少し前に、嫁が子供連れて実家に帰りました」
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