おまけ 腐祥事のその後

35/39
前へ
/193ページ
次へ
「ウソ!」  思わず大声で訊き返した。穂積の白い顔が、青ざめていく。 「まさか……俺のせいで……」 「違います。管理官はまったく無関係です。さすがに俺も、職場の上司とキスしてきたなんて嫁に話しませんよ」  井上は穂積を安心させるように、おどけた苦笑いを浮かべた。どう見ても無理しているのがわかって、穂積は胸を痛めた。  井上は、浮気を妻にペラペラと喋るような馬鹿な夫ではないと思うが、それでも妻なら――女性なら、なにか感じたのではないだろうか。  夫の気持ちが他の誰かに浮ついていることを、妻なら勘づくのではないか。  しかし井上はもう一度、管理官は関係ないんです、と強く言い切った。 「もう限界……て言われました。一人で子供を育てて、いつ帰ってくるかわからない俺を、ただ待ってるのは」  悲しい言葉の数々に、結婚したことのない穂積でも痛みを覚えた。 「この前の……連続銃撃事件で荒間署に詰めてる時に嫁から、娘が寝返りしたよってメッセージが来て、動画が送られてきたんですけど……俺、その動画見たの、三日後だったんです」     
/193ページ

最初のコメントを投稿しよう!

142人が本棚に入れています
本棚に追加