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「俺……自分で思ってるより、最低な男でした。今、管理官が俺の復縁を望んでるって知ったら、寂しくなるんだから」
「え? だってそれは……」
「俺、嫁にバレなかったら、管理官と……て考えてたんです。なんとかしてもう一回、管理官を誘えないかって悩み続けて……。ここ一カ月、男子高校生みたいに、管理官を抱くことばっか考えてました」
離婚の危機だと聞いたばかりなのに、ふしだらな心がざわめき出す。
井上にそれほど求められていたことに――胸が甘く疼く。
「不倫、したいと思いました。家庭を壊さない程度に。でも……あいつが、あいつらが実際出てったら、そんなことできないって思い知りました」
穂積の甘い夢が、静かに消え去る。浜辺の砂が、波にさらわれ、どこかもわからない海の中に消えていくように。
「嫁と子供がいない家に帰るたび、寂しくて頭おかしくなりそうです。ただ帰るだけの家だったのに……最近はそんな風に思ってたのに、嫁に捨てられそうになって、どんなに大切だったかよくわかりました。……俺、昔っから鈍いんですよ」
井上は、悲しそうに笑った。胸が痛くて、言葉が出てこない。
「あなたのことも……鈍かった。あなたが、男が好きだって知ってたら、俺でもオッケーなら……あの夜、無理やりでもどっかに連れ込めばよかった」
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