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意地悪な恋人
その車は、外から見ると白のバン。しかし車内は、通常のものと大分仕様が異なる。
車内前方には二人掛けのシートが八人分あり、後方半分にはグレーの絨毯が敷かれている。後方の窓には服がかけられるバーがついており、服のかかったハンガーと使われていないハンガーが何本かかかっていた。
車内の最後尾には、女優ライトと呼ばれる、照明が眩しい鏡台もある。つまりバンの車内半分は、簡易な更衣室になっているのだ。
その後方部分の更衣室スペースで、堂本大輔は数ヶ月ぶりに制服に着替えていた。
白いワイシャツにネクタイを締め、腰の丈までの濃紺のジャケットを羽織る。下は上着と同じ濃紺のズボンを履いた。
交番勤務で着用する、活動服といわれるタイプの制服だ。同じ色をしたキャップタイプの活動帽まで被って着替えが完了するのだが、帽子は被れず右手に握ったままだ。
「もう……行かないと……」
「ん? まだ平気だろ。どうせ、待ち時間は長いんだし」
いつ前方の扉が開くかと、大輔は気が気ではない。しかし、大輔の最愛の恋人――小野寺晃司は、戸惑う大輔を抱きしめる手を離さない。
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