第2章 夢のようだが夢ではなく、かと言って現実でもない。

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「ずっと前から好きでした。付き合って下さい。」 翔太くんの声が頭の中で反響する。心臓が他も人に聞こえるんじゃないかと思うくらい大きな音を立てていた。顔は火がついたように熱い。 「ストーップ!愛結美さん、セリフ忘れたの?!」 劇を監督する高梨さんの声にはっと我にかえる。 そう、これは劇の練習であって私が翔太くんに告白されたのではない。頭ではわかっている。わかっているはずなのに頭の中が真っ白になってセリフが出てこなかった。 「じゃあ、もう一回スズカが体育館裏に呼び出されてヒカルと見つめ合うところから。」 「すみません……。」 高梨さんの苛立ちの混ざる声に身をすくめる。だが、高梨さんが苛立つのも無理はない。この場面だけでももう6回目のやり直しなのだ。劇中では私が演じるスズカと翔太くんが演じるヒカルはとても仲が良くラストはヒカルがスズカに告白し、2人は付き合うことになるのだが、実際には私と翔太くんはとくに仲がいいわけではない。劇の練習が終わり、休み時間に入ると翔太くんは友達と遊びに行ってしまう。文化祭まであと、一週間。文化祭が終われば唯一話せる機会である、劇の打ち合わせもなくなり、話すことはほとんどなくなるだろう。
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