文化祭の姫君

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あらゆる事態が想定されるので準備もマニュアルも意味がない。故に臨機応変な判断と迅速かつ丁寧な後始末が要求される。もし問題が深刻化し、禍根が残れば翌日どころか来年の文化祭が中止になりかねないのだ。だから当日の現場対応こそが最重要業務と言えた。  故に文化祭期間中、彼女は常に全身全霊でトラブル対応に尽力していた。表にでるのは開催時の簡単な挨拶のみ。後の時間はすべて指令室にこもり数十台のモニターを睨みつけながら、テーブルに並んだ鳴り止まない数十台の無線と格闘を続けるのだ。 「今度は何だ? 一年のたこ焼き屋が盛況で粉が足りない? ならば剣道部のお好み焼き屋から借りるように言え。あそこはまだ余っている……まったく次から次と」  彼女は溜息をつく。  本当は自分だって文化祭に参加したい気持ちはある。  文化祭は大好きだ。小学生の頃に読んだ小説に出てきた文化祭で憧れを抱くようになり『文化祭をやらずして何が青春か』という思いを胸に、中学一年生で文化祭実行委員長に立候補した程だ。  だがまさかそれが高じた結果、こんなことになるとは夢にも思っていなかったのである。 「ふう……」
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