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「ただいま」
オレの声が家のなかを響き渡る。
しーん……。
返ってきたのは、耳が痛くなるほどの静寂だった。
あ、そっか。
親父、今日遅くなるって、言ってたっけ。
朝食時の親父との会話を思いだしつつ、靴をゆっくりと脱ぐ。
腕のなかにいる猫に目をやると、ニャーオと甘えるように鳴かれた。
思わず、溜息をつく。
───不覚、だよなぁ……。
ま、拾っちまったものは仕方ない。
とりあえず……。
「洗ってやらなきゃな」
数分後。
オレの家に一人の女の子が来た。
来た、というより、呼んで来てもらった、が正確な言い方だけど。
彼女は、腰を覆うほどの長く艶のある黒髪をもち、眉はキリリと凛々しく、瞳は人を見据えるように黒く澄んでいる。
つまり、美人と言えなくもないが、その顔を必要以上に厳しくさせる、黒縁のメガネをかけていた。
「なぁに? なんの用よ、与太郎くん」
玄関先で軽く腕を組み、オレを斜めに見上げているのは、幼なじみの松原香緒里。
「とにかく、上がってくれよ」
香緒里の問いには答えずに、家のなかへとうながした。
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