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朝の蜘蛛
「片づけ、どう? 無事に終わりそう?」
「ああ、何とか」
「そっか。私もなるべく早く、そっちに行けるようにするけど、それまで体に気を付けてね」
「おう。それじゃ」
北原はそう言って、電話を切った。
段ボールの積み上がった部屋をぐるりと見回し、軽く溜息を吐く。とてもじゃないが、この部屋は彼女には見せられない。片づけるどころか、引っ越したままの状態で、必要なものだけをその都度引っ張り出しながら生活しているのが現状だ。
携帯を胸ポケットにしまい、北原はベッドに腰かけた。カーテンもまだ着けていない、大きな窓からは、朝の光が燦々と降り注いでいる。
その光がまるでスポットライトのように、段ボールの側面を這う蜘蛛を照らし出していた。
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