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ふと、目を覚ました。
チャイムのような音が聞こえたのだ。
いつの間にか眠ってしまっていたようであった。
部屋は真っ暗であった。カーテンの隙間から、うっすらと街灯の明かりが差し込んでいる。
携帯を引き寄せて時間を確認する。丁度零時を少し回ったくらいであった。着信を知らせる明かりが点滅している。そういえば、朝、吉川から電話があったのをすっかり忘れていた。もうこんな時間であるし、かけ返すのは明日でもいいだろう。
少し飲み過ぎたのであろう、頭の奥がぼんやりとしている。とにもかくにも、眠くて仕方がないのだ。
そうしてまた、とろとろと眠りに落ちようとした時であった。
微睡む意識に、もう一度、音が入り込んだのである。
やはり、チャイムのようだ。
こんな時間に、訪ねてくる人に心当たりはない。そもそも引っ越したばかりの家だ。ここの住所を知る者は限られている。
聞き間違いか。
うっそりと耳を澄ませた北原の耳に、今度ははっきりと音が響いた。
北原はゆっくりと体を起こした。
チャイムが、鳴る。
とにかく、あの音の主を確かめなければならない。
立ち上がろうとして、北原は声無き悲鳴を、挙げた。
あの蜘蛛が。
壁に、張り付いていた。八つの足を八方に広げ、白い壁にひたりと取りついているのである。
――夜の蜘蛛は殺せ。
八つの目が暗闇にぬらりと光り、北原を見つめている。
――盗人が、来るから。
殺さなければいけない。そうしないと。
――盗人が。
もしや。
いや、万が一そうだったとしても、大丈夫だ。何といっても自分はもう起きているのだから、いざとなったら扉越しに警察を呼ぶぞと言ってやればいいのだ。扉も分厚い鉄で出来ているのだから、まさか蹴破って入ってきたりもするまい。鍵だってしっかりと……。
そこまで考えて、北原は青ざめた。
自分は、鍵を閉めただろうか?
帰宅して、電気を付けたところまでは覚えている。けれど、そのあとすぐにあの蜘蛛が目に入って、それで――。
チャイムが、鳴っている。
蜘蛛が、見ている。
――これから毎晩、蜘蛛を殺さないと。
では、殺しそびれたら、どうなる?
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