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北原はゆっくりと立ち上がり、台所へ向かった。
つまみを切った時に出した包丁が、シンクの中に転がっている。
武器は必要だ。相手が丸腰だとは限らない。柄を固く握りしめ、玄関の方に向かった。
背後から、視線を感じる。
蜘蛛だ。
蜘蛛が八つの目でこちらを見ている。
――夜の蜘蛛は、殺せ。
包丁を握り締めて、北原は玄関に目を向けた。
ドアノブをゆっくりと回す音が、鈍く部屋に響いた。
それから後の事は、北原は覚えていない。
赤溜まる足元を、大さな蜘蛛が這って行ったのである。
その跡は、細く。
長く。
赤い、糸のように――……。
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