心を許してしまった瞬間

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この蕎麦屋は深夜まで営業しているらしい。 蕎麦以外にもお酒や和食のメニューが豊富に取り揃えてある。 「うわ、メニュー多いね。何の蕎麦にしようかな……」 「ここは鴨せいろがオススメですよ」 「本当?じゃあ、それで」 オススメという言葉には、やはり弱い。 霧島くんは店員を呼び、鴨せいろを二つ注文してくれた。 「永里さんって、日本酒いけます?」 「日本酒は少しなら大丈夫だけど……」 「じゃあ注文しますね」 「え……」 この日初めて知った。 霧島くんは、意外と強引だ。 結局私の意見は聞かずに注文した熱燗の日本酒を、何故か一緒に呑むことになってしまった。 「……」 違和感しかない。 職場の飲み会で、霧島くんと席が近くなったことはない。 こうして顔を合わせて二人で食事をするのは、この日が初めてだった。 「あ、飲みやすい」 「でしょ?それ、うまいんですよ」 そのとき、彼は一瞬柔らかく微笑んだ。 その笑顔は、彼が得意とする営業スマイルとは少しだけ違う気がした。
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