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「今さら十年以上も前の話なんてしないで。もう終わったことなんだから」
「俺の中では、まだ終わってないんだよ」
「何言って……」
私を真っ直ぐ見つめる彼の瞳が、切なく揺れた。
「ずっと樹に触れたくて仕方なかった。……会いたくて仕方なかった」
ガタン、と彼が席を立ち上がる。
ドアノブに手をかけていた私との距離を、詰めていく。
ダメだ。
触れてはいけない。
頭の中で、警報が鳴り響く。
「……っ、そういうこと言うの、やめて下さい。……失礼します」
必死の思いで振り切り、会議室を飛び出した。
その瞬間、堪えきれずに涙が頬を伝って零れ落ちた。
何故、今になってあんなことを言うのだろう。
何故、何もかも忘れさせてくれないのだろう。
彼が何を考えているのか、わからない。
彼の本心がどこにあるのか、私には全く見えなかった。
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