心を許してしまった瞬間

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そして主任はこちらが聞いてもいないのに、朝日さんのことを語り始めた。 「永里さんから見ても、朝日は何でも完璧そうに見えるでしょ」 「……そうですね」 彼は過去に、私を完璧に騙した。 最低最悪の裏切りを、彼は完璧にやってのけた。 完璧に騙された私は、別れの言葉さえ伝える隙を与えてもらえなかった。 「でもアイツも、ああ見えて意外と女々しいところあるんだよ」 「女々しい?」 「結婚前に付き合ってた女のことが、今でも忘れられないんだって」 「……」 驚きのあまり、数秒間その場から動けなくなってしまった。 一瞬、思考が停止した。 主任は固まっている私に気付いていないのか、そのまま言葉を続けた。 「もうずっと、奥さんとうまくいってないみたいだしね。あ、この話、うちの女子社員たちには内緒ね」 「……はい」 うまく、声が出なかった。
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