心を許してしまった瞬間

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「でも霧島くん、明日仕事……」 「俺、明日休みです。確か永里さんも明日休みでしたよね」 そうだった。 自分の休みをすっかり忘れていた。 危なく明日も普通に支度して出社してしまうところだった。 でも休みがあっても、特に何か予定が入るわけではない。 他人との約束など、ほとんど皆無だ。 入れる予定といえば、一人で映画を見に行くか、マッサージを受けに行くか。 その他にはカフェで読書をするか、家の掃除をするか。 どれも一人で出来ることばかりだ。 休みの日をすごく楽しみに思う感覚は、私にはない。 今までも、きっとこれからも。 「どこ行きます?次は永里さんの行きたい店でいいですよ」 「私の行きたい店かぁ……」 蕎麦屋に来る前は一つも行きつけの店が思いつかなかったけれど、ここにきて唯一私の行きつけだと胸を張って言える店を思い出すことが出来た。 「すすきのまで歩くけど、いい?」 「いいですよ」 ほろ酔い気分のせいだろうか。 それとも、隣に霧島くんがいるからなのだろうか。 店に向かう足取りは、いつもよりも軽かった。
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