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「へぇ。なんか意外ですね」
「何が?」
「永里さんも、こういうとこで酒飲んだりするんですね」
私が連れて行った場所は、小百合とたまに来るバーだった。
恐らく五十代後半の寡黙なマスターが作るカクテルと、ジャズが流れる落ち着いた店の雰囲気が気に入っている。
初めてここを訪れたのは、大学生の頃だった。
あれから約九年、私はずっと通い続けている。
「樹ちゃんが男性を連れて来たのは、初めてだけどね」
「マスター、余計なこと言わないで下さい」
マスターは優しく微笑み、私と霧島くんの前にオリジナルのカクテルを差し出した。
マスターの言う通り、ここには小百合としか来たことがない。
小百合に予定があるときは、一人でここを訪れる。
一人で飲む時間を、寂しいと感じたことはない。
自分のペースで飲めるし、他人に気を使うこともない。
普段仕事で気を使うから、プライベートな時間くらいは楽な気持ちで過ごしたい。
「永里さんって、一人でいるのが好きなんですか」
「好きっていうか……苦ではないかな」
「俺もわりと好きです。一人の時間」
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