心を許してしまった瞬間

29/33

116人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
「実は彼とは……昔からの知り合いで……」 「元彼ですか」 「……っ」 「当たりだ」 霧島くんはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。 さすがにここまで読まれてしまうと、何も言えなくなってしまう。 「すごいですね。仕事で再会するなんて」 「本当にね。まさか、再会するなんて思わなかった。……もう二度と、会いたくなかったのに」 気付いたら、口から零れ落ちていた。 きっと、酔っているからだ。 飲み過ぎてしまったせいだ。 だから私は、今にも泣き出してしまいそうな気持ちを抑えながら、霧島くんに弱音を吐いてしまうのだ。 「嫌な別れ方でもしたんですか」 「……別れの言葉さえ、聞かせてもらえなかった」 私はそこから、彼との過去を話し始めた。 親友の小百合にさえ話していないことを、何故か霧島くんに打ち明けていた。 彼に二股をかけられていたこと。 突然、音信不通になったこと。 その後、子供が出来たから結婚すると兄の口から聞かされたこと。 それでも、彼を完全に憎みきれずにいること。 本当は、ずっと誰かに聞いてほしかったのだろうか。 胸の内で必死に抑え続けてきた、未練の言葉を。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

116人が本棚に入れています
本棚に追加