心を許してしまった瞬間

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「霧島くんって、今彼女は……」 「いないです。いたら今日ここに来てないし」 「そうだよね……」 彼女がいないのなら、誰を思い出していたのだろう。 もしかしたら霧島くんにも、忘れられない恋があるのだろうか。 聞いてみようかと思ったけれど、結局何も聞かないことにした。 聞いても、きっと彼は答えないだろうから。 そもそも私と霧島くんは、過去の恋愛を暴露し合うような関係ではない。 ただの、先輩と後輩。 それ以上も以下もない。 次に職場で顔を合わせるときには、今日二人で飲んだことなど互いに忘れているはずだ。 「とりあえずもうちょっと飲みますか」 「うん、そうだね。マスター、私さっきのカクテルもう一杯もらっちゃおうかな」 「酔いつぶれるまでは飲まないで下さいね」 「大丈夫だよ。私、職場の人と飲んで酔いつぶれたことはないから」 いつもの私なら、こんなに酒をあおるようなことはしなかった。 あと少し、なんて言わずに自分でタクシーを拾って帰っていた。 この数時間後、私は人生最大の後悔の渦へと巻き込まれることになる。 何故私は、彼に心を許してしまったのだろう。
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