心を許してしまった瞬間

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「とにかく、その男には絶対近づかない方がいいよ。不倫なんか、誰も幸せになれないんだから」 「……うん。わかってる」 本当なら、仕事でも関わりたくないぐらいだ。 彼はきっと、また私を傷つける。 もう二度と、あんな思いはしたくない。 「樹もさ、そろそろ初恋の男にされたことなんか忘れて、恋してみたら?誰かいい人いないの?身近に」 「いない」 「職場は?」 「だからいないってば……」 と、そこまで口にして何故か霧島くんの顔が頭に浮かんだ。 広報室の男性はほとんどが既婚者だ。 それに、私には男友達が一人もいない。 そうなると必然的に、身近にいる独身の男で思いつくのは彼だけになってしまう。 「あ、今誰かの顔浮かんだでしょ」 「浮かんだけど……恋とか絶対にあり得ない相手だから」 それに、私は恋がしたいわけではない。 このままずっと独りだったらどうしようと、言いようのない不安が迫ってくることもある。 でも、十年以上も恋から遠ざかっていると、今さら寂しいと感じることはなかった。 きっと私はこれから先も仕事のために生きて、独身を貫くのだろう。 それで構わないと、このときは本気で思っていた。
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