心を許してしまった瞬間

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小百合と飲んで愚痴を聞いてもらった数日後、朝日さんと二度目の打ち合わせの日がやってきてしまった。 もしかしたら室長が担当を代わってくれるかもしれない。 無理だとわかっていたものの、そんな淡い期待を胸に抱いて室長にさり気なく頼んでみた。 「無理。俺、他の仕事で手一杯だから」 「そこを何とか……」 「ブライダル関係は、お前の担当だろ。代われるヤツなんかいないんだから、早く打ち合わせ行ってこい」 「……はい」 あっさりと玉砕し、私は憂鬱な気分で朝日さんが勤めている海堂出版へやってきた。 札幌駅から徒歩三分の距離にある、高層ビル。 東京に本社があり、全国に支社がいくつもある。 警戒心を張り巡らせながら一階で受付を済ますと、すぐにエレベーターから朝日さんが降りてきて私を迎え入れた。 「永里さん、お待たせしました。上の会議室に案内するんで、僕についてきて下さい」 「あ……はい」 彼はこちらが拍子抜けするほど、完全に仕事モードで対応してきた。
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