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「……時間はありません。すぐに職場に戻らなくちゃいけないので」
「三分で終わるから」
「仕事の話以外は、聞くつもりありません」
彼のペースに乗せられてはいけない。
あえて強い口調を意識して拒んだのに、私の言葉は彼には届かなかった。
「何も言わずに樹の前からいなくなって、ごめん」
「……」
「本当は、あんな別れ方したくなかった。……樹と別れるつもりも、なかったよ」
息が詰まりそうになる。
苦しくて、手で胸を抑えた。
もう何も聞きたくない。
あの頃の彼の気持ちなど、どうでもいい。
すべてはもう、終わったことなのだから。
「誤解しているようだから言うけど、俺は樹のこと、本気で愛してたよ」
「嘘言わないで!」
我慢の限界だった。
憎しみなのか、過去への未練なのか。
抑えていた感情が、溢れ出していく。
「いい加減にしてよ!今さらそんなこと言われても困るの!言い訳なんか聞きたくない!」
本気で私を愛していたなんて、聞きたくなかった。
何を言われても、もう遅すぎる。
結局、彼は私を選ばなかったのだから。
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