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「永里さんって、素直な人なんですね」
「え、まさか!自慢じゃないけど……素直とは真逆の人間です」
もっと素直になりたい。
好きな人の前で、自分の気持ちをさらけ出せるようになりたい。
でも実際は可愛くないことばかり口にしてしまう。
そんな自分が嫌で仕方なかった。
「そんなことないですよ。恋に夢中な感じがすごく出てます」
「……っ、恥ずかしいです……」
クスクスと楽しそうに笑う彼女の前で恥をさらしていると、不意にこちらに近付いてくる男性の姿が見えた。
霧島くんよりも少し背が高く、スーツが似合うその男性は私たちの席の近くまで来たところで、彼女の名前を呼んだ。
「純」
「棗くん!お疲れ様です」
名前を呼ばれた瞬間、彼女は幸せそうに満面の笑みを浮かべ彼の方を振り向いた。
こうして眺めているだけで、二人の仲の良さが伝わってくる。
霧島くんは、自分の気持ちを伝えることよりも、彼女の幸せを優先したんだ。
二人の仲を壊したくはなかったのだろう。
彼女の笑顔を曇らせるようなことは、したくなかったのだろう。
悩み抜いたであろう彼の選択から、深い愛を感じた。
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