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「……だから、連絡したくなかったんだよ」
「え?」
「君がそう言うってわかってたから」
「え……」
いつでも自信たっぷりな朝日さんが、少しだけ弱気な顔を見せた。
付き合っていた頃は、彼のこんな顔を見たことはなかった。
いつだって堂々としていて、優しくて、一緒にいるときは全ての行動が完璧に見えていた。
あの頃の私は、彼の何を見ていたのだろう。
好きだと言いながら、表面しか見ようとしていなかった。
彼の心の奥に触れようとはしていなかった。
時間が経ち、今ならわかる。
十年前、彼に裏切られていなかったとしても、きっとあの初恋はいつか終わりを迎えていた。
「朝日さん……もしかして最初から……」
「霧島くんがうらやましいよ。君にそこまで想ってもらえるなんて」
「……」
「失恋したら、俺のところに戻っておいで」
「戻りません。朝日さんと会うのは……今日で最後です」
「相変わらず真面目だな」
私は少しも笑えなかったけれど、朝日さんはハハッと声に出して笑ってみせた。
そして、今日で最後か……と空を見上げながら今にも消えそうな声で呟いた。
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