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「送ります」
私がのんびりと服を着ている間に、霧島くんは既に服を着て外に出る支度を済ませていた。
「え……いいの?」
「何言ってんですか。送るに決まってるでしょう」
「でもホテルまで近いし、タクシー拾えばすぐだから大丈夫だよ」
遠慮したというよりも、最初からタクシーを使うつもりでいたから、当然のように霧島くんの申し出を断った。
でもその一言により、それまで甘い笑顔を見せていた霧島くんの表情が一気に怪訝なものへと変わった。
普段はポーカーフェイスを装うのに、たまに今みたいにわかりやすく感情を顔に出す。
「いい加減、そういう気遣いやめません?」
「だって霧島くん、せっかく帰ってきたのにまた外に出るなんて……」
「ギリギリまで俺と一緒にいたいって、樹さんは思わないんですか」
「え……」
「俺は、ギリギリまでいたいんですよ。……って、何でここまで言わないとわかんないかな」
自分の言葉に照れながら、照れ隠しで私を睨みつける霧島くんに私はまた抱きついた。
ついさっきまで、彼の温もりを余すことなく堪能していたはずなのに。
ふとしたときに、またすぐ触れたくなってしまう。
足りない。
もっと、もっと、ずっと。
誰よりも近くで、彼を感じていたい。
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