氷の女の意外な一面

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四月。 札幌の春は、東京に比べるとだいぶ肌寒い。 札幌に異動になった俺は、希望していたブライダル部門へ配属された。 ウェディングプランナーとしての基礎や接客について叩き込んでくれたのは、部門の中ではトップの存在でもある楢崎主任だった。 プランナーは女性の方が割合が多いことは最初から把握していた。 集団の女性は苦手だ。 苦手というか、好きじゃない。 無意味な噂話で盛り上がり、他人の迷惑を考えずに騒ぎ立てる。 きっと主任も女性なのだろうと勝手に思い込み少し憂鬱になっていたけれど、幸いにも俺の直属の上司は男性だった。 「霧島。わからないことがあれば、その都度俺に聞いていいから」 「わかりました。でも主任も忙しいんじゃないですか」 「気にしなくていいよ。それにここは見てわかる通り、女性が多い職場だからね。男の部下は貴重だから、世話を焼きたいんだよ」 爽やかな笑顔で新人の俺を気にかけてくれる。 最初はその笑顔の裏には何か企みがあるのではと警戒していたけれど、次第にその警戒心は薄れていった。 「そうだ、霧島にもそろそろ紹介しておくよ。永里さん、今ちょっといい?」 「はい」 異動して数日が経った頃、楢崎主任は俺を広報室へと連れて行った。 そこで、彼女と初めて対面した。
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