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大学を卒業した俺は、全国展開している有名なホテルへの就職が決まった。
いろいろな選択肢があった中で、ホテル業界への進路を進めたのは、他でもない純だった。
あれは俺が大学三年の頃。
純がまだ結婚する前の話だ。
大学に通いながらも、将来自分のやりたい仕事など一つもなかった。
とりあえず適当に大手企業に就職して、無難に生きていくつもりでいた。
そんな俺に、ある日彼女は言った。
「冬汰は接客業が向いてるんじゃないかな」
「接客業?俺が?いや、ないだろ絶対」
突拍子もない彼女の発言に、思わず鼻で笑ってしまった。
アルバイトで接客業の経験はある。
でも、当然自分には愛想というものがないことは自分でも理解している。
だからそれを生涯の仕事にするなんて、考えられないことだった。
「どうして?いいと思うけどなぁ」
「何がいいんだよ。俺みたいな無愛想なヤツが接客なんかしたら、仕事先の評判落ちるだろ」
「そんなことないって!実はね、この間棗くんとブライダルフェアに行ってきたの」
「ブライダルフェア?」
彼女が結婚することは、このとき既に決まっていた。
この頃彼女は結婚式場を選ぶため、恋人と頻繁に都内の式場へ足を運んでいたらしい。
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