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もう、繰り返さない。
もう二度と、樹を傷つけない。
きっとこの時点で、俺の覚悟は決まっていた。
「今さら十年以上も前の話なんてしないで。もう終わったことなんだから」
「俺の中では、まだ終わってないんだよ」
「何言って……」
何故俺がこんなにも樹に執着するのか、彼女には理解出来ないだろう。
理解してもらえなくてもいい。
許してもらえなくてもいい。
ただ、知ってほしかった。
俺の中で樹は今でも特別な存在なのだということを。
「ずっと樹に触れたくて仕方なかった。……会いたくて仕方なかった」
席から立ち上がり、扉の近くにいる彼女の元へ足を踏み出した。
ここから逃がさない。
そのつもりだったのに、触れる寸前で彼女は再度拒絶の意志を見せた。
「……っ、そういうこと言うの、やめて下さい。……失礼します」
会議室を飛び出した彼女を追うことは出来なかった。
本当は、わかっている。
傷つけないなんて無理だとわかっている。
俺がこうして言葉を投げかけるだけでも、彼女を傷つけてしまうのだ。
……それでも、再会しなければよかったとは思えなかった。
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