彼女の視線の先

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「え!先輩、いま樹と仕事してるんですか?」 「そう。驚いたよ。まさかこっちで再会すると思わなかったからね」 「いやぁ、マジで驚きました。すごい偶然っすね」 樹の兄の賢介とは、ここ最近は連絡を取っていなかった。 樹と再会したことで、久し振りに賢介と話がしたくなり電話をかけた。 「アイツ、ちゃんと仕事やってます?先輩に迷惑かけたりしてません?」 「してないよ。むしろ、彼女が担当で良かったと思ってる。少し打ち合わせしただけでも、すぐにわかったよ。きっと仕事が好きなんだろうなって」 今のホテルに就職してからずっと、彼女は真面目に仕事に取り組んできたのだろう。 渡された資料にも、彼女の細やかな性格が反映されていた。 仕事をひたむきに頑張る彼女の姿は、何よりも眩しく見える。 その視線の先に、俺がいないとしても。 「アイツは完全に仕事人間ですからね。仕事ばっかりやってたら婚期逃すぞって忠告してやってるんですけど、余計なお世話だって邪険に扱われますから」 「……婚期、か」 婚期なんて、逃してしまえばいい。 俺以外の男なんて、見えなくなってしまえばいいのに。
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