彼女の視線の先

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「ただいま」 「お帰りなさい。ごめん、私もさっき帰ってきたからまだご飯出来てないの」 「俺の分はいいよ。今日はもう食べてきたから」 「そう、良かった。唯、もうちょっと待っててね!すぐ作るから」 「はーい」 同僚と食事をして帰宅すると、咲がキッチンで慌ただしく夕食を作っていた。 いつもなら夜七時頃には食事を済ませているはずだけれど、彼女も仕事が終わるのが遅かったらしい。 「仕事、忙しいのか」 「それなりにね。人手が足りないから、仕事が回ってくるのよ」 咲は大学在学中に簿記やパソコンの資格を取得していたため、子育てのブランクはあったにも関わらず事務員として今勤めている会社に採用された。 今は事務職だけではなく、営業の仕事にも携わることがあるらしい。 咲はもともと行動力があり積極的に人と交流する性格だ。 そういう意味では、営業の仕事は事務よりも向いているかもしれない。 「パパ!ご飯出来るまでの間、勉強教えてくれる?」 「あぁ、いいよ」 娘の唯は、俺が早く帰ってきたときはいつも嬉しそうに出迎えてくれる。 いつまで父親を好きでいてくれるのかはわからないけれど、出来ることならこのまま一生嫌われたくない。 それは、子を持つ親なら誰もが思うことだろう。
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