彼女の視線の先

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「……じゃあ今度、三人で食事に行こうか」 「ママと二人は嫌なの?」 「嫌じゃないけど、唯が一緒の方がもっと楽しいからね」 子供は大人よりも敏感だと思うことがある。 そして、大人特有の狡さをまだ知らない分、的確な言葉を直球で投げてくる。 自分の気持ちを誤魔化し続けるのも、そろそろ限界かもしれない。 「……ちょっと夕飯の支度手伝ってくるよ。その問題解けたら呼んで」 リビングに唯を残し、俺はキッチンで料理中の咲の方へ歩み寄った。 「あら、どうしたの?手伝ってくれるの?」 「咲。ちょっと話があるんだけど……」 咲と二人で話す時間を作りたい。 一方的に俺が話すことになってしまうかもしれないけれど、そろそろちゃんとしたかった。 今度、時間を作ってくれないか。 そう切り出そうとした瞬間、タイミング悪く彼女のスマホに着信が入ってしまった。 「はい、朝日です。えぇ、その件なら……」 結局この日、咲と話し合う時間は作れなかった。
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