彼女の視線の先

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「あとで少しそっちに顔出すよ」 「わかりました」 彼は小さく会釈をし、カウンターを通り過ぎトイレへ向かった。 「今の、楢崎の部下?」 「そう。まだ若いけど、結構仕事出来るんだよ。ブライダルには男性プランナーが少ないから、俺は可愛がってるんだけどね」 「そのわりには彼、無愛想だったな」 「愛想はないけど、良いヤツだよ。話せばわかる。仕事中はちゃんと笑顔見せるしね」 「へぇ」 「きっと仕事とプライベートの区別がハッキリしてるんだろうな」 彼が部下だとしたら、扱いにくそうだと瞬時に思った。 言葉はほとんど交わしていないけれど、俺や楢崎を見る目で何となくわかる。 誰に対しても、心の内を読ませない。 そういうタイプは決して嫌いではない。 むしろ、初めて会ったときの樹に少し雰囲気が似ている。 性別も外見も何もかもが違うのに、なぜだかそう思ってしまった。
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