彼女の視線の先

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俺は彼女たちから逃げるように、彼の隣に移動した。 「今日は悪かったね。職場の飲み会にいきなり参加しちゃって」 「いいんじゃないですか。先輩たち、相当テンション上がってるみたいですし。正直、うるせーなとは思いますけど」 真顔で淡々と毒を吐き捨てる。 俺の職場にこういうタイプの部下はいない。 面白い子だと思った。 「霧島くんは結構飲める感じ?」 「そうですね。それなりには」 「日本酒は?」 「いけますよ」 「よし。じゃあ、飲もう」 近くを通った店員に日本酒を冷やで注文した。 彼は無愛想だけれど、ノリが悪いわけではないようだ。 楢崎が可愛がりたくなるのも、少しだけわかる気がした。 「霧島くんは札幌出身?」 「東京です」 「あぁ、そうなんだ。じゃあこっちに転勤になって嫌じゃなかった?」 「嫌でしたよ。ていうか、今でも嫌ですけど」 「ハハッ、素直だね」 「こっちの生活にはなかなか慣れないんですよね」 「わかるよ。俺は苫小牧出身なんだけど、就職で東京に出たときはいろいろ大変だったな」 あの頃は、早く東京の生活に慣れたくて必死だった。 自分にとって大事なものが何なのか、見えなくなっていた。
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