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約束の時間の一時間も前から、時計ばかり見てしまう自分はどれだけ滑稽に映るだろう。
あと三十分、二十分……。
時計の針が進む度に、胸の鼓動も速くなる。
「朝日さん、コーヒーどうぞ」
「あぁ、ありがとう」
「これから、大事な打ち合わせでもあるんですか?」
「え?」
「何かすごい緊張感が漂ってくるんで。頑張って下さい!」
「……ありがとう」
派遣の事務の子にまで、いつもと違う空気に気付かれ励まされてしまう始末だった。
それでも俺は、忘れかけていた胸の高鳴りに喜びを感じずにはいられなかった。
もう二度と、胸が躍るような出来事は起きないと思っていた。
ずっとこのまま、過去に犯した過ちを悔やみながら生きていくのだと思っていた。
俺に夢を見る資格はない。
そんなこと、わかっている。
もう十分だというほどに、わかっている。
それでも樹の前に立つと、彼女を深く愛していた頃の自分に戻ってしまうのだ。
「朝日さん。下の受付にスカイプレミアの広報の方がお見えになったそうです」
「わかった。今行く」
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