世界中の誰よりも

29/38
275人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
和室の襖を開き、母が敷いた布団に父を寝かせた。 恥ずかしいと思う反面、父がこんなに酔うまで飲んでしまったことには、何か理由がある気がしてならなかった。 「きっとお父さん、寂しいのよ」 「え?」 「娘が嫁ぐことが、嬉しいと同じくらい寂しいんじゃない?特に樹は、子供の頃はずっとお父さんっ子だったでしょ」 「……」 そうだ。 子供の頃は、厳しいことを言う母よりも、優しく私を甘やかしてくれる父の方が好きだった。 父がどこかへ出掛けるときは、私も一緒に連れて行ってもらったし、父の元気がない様子のときは、私も心配で仕方なかった。 父の中では、あの頃の記憶が鮮明に残っているのだろうか。 「霧島さん、飛行機の時間は大丈夫なの?そろそろ行かないと乗り遅れちゃうんじゃない?」 「あぁ、そうですね。そろそろ出ないとまずいかもしれないです」 時間の流れはあっという間だ。 窓の外を見ると、既に日が暮れている。 すぐに空港へ向かわなければ、予約している便に乗り遅れてしまうかもしれない。 霧島くんが帰る準備をする。 この時間が、私は一番嫌いだ。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!